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1 赤外線調査のしくみ

 

       1 1 赤外線外壁診断の原理

       2 2 赤外線法と打診法の比較

       3 3 温度管理の重要性

       4 4 ノイズの問題

       5 5 撮影解像度

       6 6 撮影角度

       7 7 調査に使用する機材

       8 8 ノイズリダクション機能

       9 9 日本赤外線劣化診断技術普及協会(JAIRA)

 

1 赤外線外壁診断の原理

 

赤外線調査の原理外壁の表面温度に健全部と欠陥(浮き)部との間で温度差があることに着目すると、熱を受けて温度が上昇するときには裏に空気層をもつ欠陥(浮き)部は健全部にくらべて温度が高くなります。


逆に外気温が低下する局面では欠陥(浮き)部は健全部にくらべて温度が低くなります。外気温が下がっても健全部は躯体コンクリートからの熱供給があるので温度低下がゆるやかであるのに比べて、欠陥(浮き)部は躯体からの熱供給が少なく温度低下が速いためです。


下記写真はタイル貼り壁面の同じ個所を可視画像と熱画像で比較したものです。

 

浮き部の熱画像例
欠陥(浮き)部が健全部にくらべて1℃程度高温になっているのがわかります。

下記の熱画像は同じ場所を温度上昇時と温度下降時に撮影したもので、浮きと考えられる変温部Ar1が上昇時には高温に、下降時には低温になり上昇時下降時で逆の現れ方をすることがわかります。


温度上昇時の熱画像       温度下降時の熱画像
      [A]温度上昇時                        [B]温度下降時

上記の状況を温度分布図としてグラフ化したものが下記の図(温度プロファイル)です。Ar1部分(浮き部)が周囲に比べて、温度上昇時に高温に、温度下降時に低温になっていることがグラフ上からも読み取れます。
温度分布グラフ
            [A]温度上昇時                    [B]温度下降時

 

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2 赤外線法と打診法の比較

 

赤外線法と打診法の比較の一覧表です。打診法は古くから採用されてきた実績のある調査法です。直接五感(主に聴覚)で感じ取る方法なので直感的にわかりやすく信頼度も高いのですが、感覚に頼るため打診者によるばらつきがでやすいことと、同じ打診者が調査しても長時間の作業で感覚が変化してくることがあるという現実的な問題をもっています。

 

赤外線法と打診法はそれぞれメリットデメリットがあるため適材適所で使い分けていくのがよいと思われます。

 

赤外線法と打診法の比較

 

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3 温度管理の重要性

 

欠陥(浮き)部と健全部との間に温度差が出るのは、外気温が上昇してそれにつれて壁面温度が上昇するときか逆に温度が下降するときです。

 

次の図のように、温度変化が上昇から下降または下降から上昇に転じる時間帯では、健全部と欠陥(浮き)部の間に、欠陥(浮き)の判定ができるような温度の差がありません。

1日の温度変化のグラフ

また、温度上昇や温度下降のある場合でもその温度勾配(温度変化の度合い)がゆるやかな場合は、健全部と欠陥(浮き)部の間の温度差が少ないので欠陥部を見つけるのが難しくなります。

 

したがって、欠陥(浮き)部の判定をする適用可能時間帯で熱画像を撮影するのが必須の条件になってきますが、適用可能時間帯すなわち壁面温度が順調に上昇もしくは下降する時間帯はその時の気象条件によって変動するため、壁面温度をモニターしながら適切なタイミングで撮影する必要があります。

 

次の例は同じ個所を日時を変えて撮影したものですが、熱画像[A]では変温部が写っていますが、熱画像[B]では変温部が写っていません。
適切な温度変化時の熱画像   不適切な温度変化時の熱画像
       熱画像[A]                              熱画像[B]

 

上記[A][B]の熱画像撮影時の温度環境は下記のような具合です。[A]の撮影時には3時間にわたって温度上昇基調であり平均すると1時間当たり2.4℃の温度上昇がありましたが、[B]の撮影時には3時間のあいだに緩慢な上下を繰り返し一定の温度勾配を確保できず明確な浮き部の特定がしにくい状態だったことがわかります。
適切な温度勾配のグラフ     不適切な温度勾配のグラフ
            温度勾配[A]                         温度勾配[B]

 

このように赤外線調査においては適切な温度環境であることをチェックしながら撮影することが大事になってきます。

 

 

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4 ノイズの問題

 

赤外線撮影時に注意を要する点に「ノイズ」があります。
 

  ノイズとしての高温部のある熱画像  ノイズの見えない別角度の熱画像

 

浮きであれば温度上昇時に高温を示しますが、上記例の左の熱画像で高温部が見えます。ところが角度を変えて撮影すると、右の熱画像のように高温部が消えてしまいます。このように浮きと異なる原因で変温部が生じる場合を「ノイズ」といいます。

 

ノイズの原因としては
様々な種類のノイズの現れた熱画像@天空反射、A裏面の受熱放熱、B壁面の汚れ、C日影、陰影、D地面の照返し、E対面壁の反射、F樹木等の影響、G室内の暖冷房、H柱梁部、I隅部への熱集中など多岐に渡り複合的に現れる場合もあります。
メリットの多い赤外線診断法ですが、複雑なノイズの影響を取り除きながら解析をする必要があるため、信頼できる診断には撮影・解析に高い技術の裏付けが必要になってきます。

 

 

 

 

 

 

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5 撮影解像度

 

撮影角度と解像度撮影解像度は一つの画素(ピクセル)に写る対象面の大きさです。高解像度機種は細かい部分まで識別できますが低解像度機種は大きな範囲までしか識別できません。
例)右記の図の例で試算すると、30万画素タイプの機種が18ミリ角のものまで識別できるのに対し、2万画素(エントリー機種)タイプの機種では85ミリ角程度までしか識別できず、45二丁掛などのタイルの検討が難しくなってしまいます。したがって、事前にその現場の撮影方法を計画しその現場に合った機種の赤外線カメラ(サーモグラフィー)を選択することが必要です。

 

 

 

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6 撮影角度

 

(ア) 垂直方向の撮影角度


仰角俯角は右上図のように45度を基本的な限度としています。急角度になると空からの熱の反射成分が多くなり解析しにくくなります。
適切な角度がとれないときは、許可を得て向かいの建物から撮影したり、遠距離から望遠で撮影する、斜めから撮る、ブランコによる調査をする、高所作業車で撮影する等の対策をとります。

 

隣接建物屋上からの撮影  ◇ 隣接建物屋上からの撮影

 

見上げ角度が大きい狭い道路から の撮影を避けて、道路を挟んだ対面建物屋上から適切な角度での撮影をした例

 

 

 

 

 

 

遠距離建物から望遠で撮影 ◇ 遠距離建物上層階からの撮影

 

線路に面した部分の壁面を、遠距離だが見通しのできる建物の外部階段から望遠レンズを使用して撮影した例

 

 

 

 

 

 

 

 

ロープブランコによる打診調査 ◇ ロープブランコによる調査

 

見上げ角度の大きい壁面についてブランコにて打診調査を実施した例

 

 

 

 

 

 

 

高所作業車での作業 ◇ 高所作業車からの撮影

 

見上げ角度の大きい壁面について高所作業車からの撮影を実施した例

 

 

 

 

 

 


(イ) 水平方向の撮影角度


水平方向については左右それぞれ30度の角度を基本的な限度としています。垂直方向と同様に建物以外の熱反射をできるだけ拾わないようにするためです。障害物を避けたり、仰角を抑えるためなどで、建物に対して直角に撮影できないときは30度の範囲内で画角の設定をします。

 

 

 

撮影角度(水平面)

 

 

 

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7 調査に使用する機材

 

(ア) 赤外線サーモグラフィ


赤外線カメラです。特にポイントとなるのは


@ 撮影解像度
「空間分解能」ともいいます。検出できる最小の大きさ。この数字が小さいほど細かな部分まで見えるということになります。よく「○○万画素(ピクセル)のデジカメ」などといいますが、この画素数が多ければ解像度の数値はよくなります。


A 温度分解能
赤外線サーモグラフィーは写そうとする対象物の温度を記録します。浮き部と健全部との温度差を見出して浮きの有無を解析するわけですが、このとき見分けられる最小の温度差を「温度分解能」といいます。これも小さい数値のほうが高性能ということになります。温度分解能は0.1℃くらいは必要です。(ちなみに弊社で使用しているサーモグラフィーの温度分解能は0.04℃です。)


B ノイズリダクション機能
冬場や夜間など温度差が出にくい温度環境のときには通常の温度分解能では浮き部と健全部の違いが検知しにくくなります。そのような状況で温度分解能をさらに向上させる機能です。(詳細は別項目(8)参照)

 

 

(イ) 壁面温度計


壁面温度計正確には温度データロガーといい、刻々と変わる温度を継続的に計測しデータとして記録する機械。2つあるセンサーのひとつは壁面温度をもうひとつは外気温を記録するようにしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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8 ノイズリダクション機能

 

[1] 「S/N」と「ノイズリダクション」について


□ a. S/N比とは


i. 信号とノイズの比 (signal-noise ratio)
ii. SN比が高ければノイズの影響が小さい


□ b. S/N比とノイズリダクション


i. ノイズリダクション(Noise Reduction)とは映像等信号においてノイズと見なされる成分を除去する処理。

 

 

[2] サーモグラフィのノイズリダクション機能


■ a. サーモグラフィにおけるノイズリダクション(NR)


i. ノイズリダクションは連続したいくつかの画像の平均値を記録します。本来の画像信号はすべての画像にあらわれるのに対しノイズはばらつきがあるのですべての画像にはあらわれません。その結果本来の信号が通常通り表示されノイズは薄められて表示されます。(何枚分かの画像を撮影したのちそれらを合算して平均値を計算する「加算平均」と、常に次の画像との差を平均化していく「移動平均」とがあり、移動平均のほうが対象時間が短いので手ぶれの影響が少ない。)


ii. サーモグラフィにおいては画像が熱情報をもつため温度分解能を高めるNR説明例 可視画像役割を果たします。


iii. 温度分解能のNRによる差(FLIR/SC620の例)
@ NRなし:温度分解能0.04℃
A NR低:温度分解能0.026℃
B NR嵩:温度分解能0.019℃


■ b. NRの使い方


i. 最少検知温度差が小さく通常の温度分解能では検知しにくい場合


ii. 気温が低くサーモグラフィの感度が低下する局面でNRを使用


iii. NRを使用する場合「高」「低」の使い分けは、三脚が使用できる場合は「高」にして使用することで構わないが、手ブレの心配のある場合は「低」にして対応する。


■ c. NR有無の画像例


右記実画像部分を
NR「なし」「低」「高」で
それぞれ撮影した熱画像例
を次示します。

 

 NR_OFFの熱画像NRなし

 

 NR_ON(邸)の熱画像 NR低

 

 

 NR_ON(高)の熱画像 NR高


(NRをかけると「なし」「低」「高」の順に変温部が絞り込まれていくのがわかります)

 

 

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9 日本赤外線劣化診断技術普及協会(JAIRA)

 

 

(ア) 既存の赤外線による診断方法


今までの赤外線劣化診断での問題点
1. 温度変化等必要な条件を満たさないまま劣化部の判定をするケースがある
2. 調査完了後の検証作業が難しい
3. 解像度の低い赤外線カメラの使用で劣化部の識別が困難

 

(イ) JAIRAによる診断方法

 

日本赤外線劣化診断技術普及協会(略称JAIRA(ジャイラ))

 

http://www.jaira.jp/


JAIRA法という手順を定め、問題点をできるだけ解消するようつとめています。JAIRA法_特許証
@ 現地踏査・計画・撮影・解析・報告書までの一連の作業を定めて、解析のために必要な条件を可能な限り満たした上で撮影し報告書にまとめるようにしました
A 上記各作業の記録化につとめトレーサビリティ(第三者が解析の流れをたどって診断手順の確認が出来る)を確保しました
B 変状部判定に必要と考えられる解像度を設定し赤外線カメラの性能値のレベルを定めました
C 調査実務については日本赤外線劣化診断技術普及協会の講習および試験合格者(サーモグラファーステップ1、ステップ2)が担当することで必要な水準が担保されるようにしました
D 赤外線による一連の劣化診断技術システム(JAIRA法)について特許を取得しています(パッシブ赤外線法によるコンクリート表層部の変状部検出方法(特許4448553))

 

 

(ウ) JAIRAの調査ガイドライン


@ JAIRAによる調査方法は「赤外線調査ガイドライン」にその手順がまとめられ公開されています。
A 上記ガイドラインにおいて、計画→撮影→解析→報告の手順が決められていますが、それぞれの項目ごとに内容に応じてサーモグラファーステップ1もしくはステップ2が作業するようしています。赤外線調査についての深い理解と経験がないとガイドラインを見ただけでは調査を遂行するのが難しいからです。したがってJAIRAによる調査方法は、JAIRA会員会社が、ガイドラインで指定されたサーモグラファーステップ1、2の技術者に作業をさせた場合にのみ有効とされています。

 

 

(エ) 邑都設計工房の取り組み

 

弊社は日本赤外線劣化診断技術普及協会(JAIRA)のサーモグラファーステップ1、ステップ2を取得しているほか、公益社団法人ロングライフビル推進協会(BELCA)の建築仕上診断技術者、また特定建築物調査員資格者(国土交通大臣)を取得しており、調査目的に応じた調査対応ができる体制をとっています。

 

 

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